世襲画策が失敗、クーデターで経営混乱状態

セブン&アイHDは4月7日午前に開いた取締役会で、コンビニエンスストア事業を手掛ける中核子会社セブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長兼COO(最高執行責任者)を交代させる人事案を否決。
社外取締役を中心に複数の取締役が反対した。
近日中に臨時取締役会を開き、人事案について再度協議する。鈴木氏は井阪社長の退任案を主導していたとみられる。

「持ち株会社と傘下の上場企業の経営権を一手に握り、権力を過度に集中させてきた鈴木氏が社内の権力闘争で敗れた」(業界筋)

 鈴木氏は全役職を辞任するかたちで「けじめ」をつける。

「流通の神様」「セブン&アイの天皇」と評価され、セブン&アイHDを一大流通グループに成長させた鈴木氏の時代が終焉する。今回の突然の鈴木氏引退劇の裏側では、何が起こっていたのだろう。

●強権

「鈴木氏が息子を社長にするために、強権をふるい始めた」(業界筋)

 セブン&アイHDは4月6日、鈴木氏の意向に基づきセブン-イレブンの井阪社長を退任させる人事案を固めた。後任は古屋一樹取締役執行役員副社長。古屋氏は66歳で井阪社長より8歳も年上で、若返りに逆行する。井阪氏はセブン&アイHDの取締役も退任する方向とされていた。

 井阪氏の首を切る人事は4月7日の取締役会に諮(はか)られることになったが、この人事案に社外取締役2人が反対しているという情報が駆けめぐった。セブン&アイHDは3月に導入した指名・報酬委員会にこの人事案を提示。長時間協議されたが、意見が割れたまま7日の取締役会に突入した。

 指名・報酬委員会の委員長は伊藤邦雄・一橋大学大学院特任教授。もう1人の社外取締役は米村敏朗・元警視総監。2人とも鈴木氏の人事案に反対した。同委員会の会社側のメンバーは鈴木氏とセブン&アイHDの村田紀敏社長。結局、2対2となった。伊藤氏と米村氏は「セブン-イレブンは好業績が続いている」として、この社長交代に反対の立場だ。セブン-イレブンはセブン&アイHDの利益の70%以上を稼いでいる。「井阪社長を辞めさせるのには無理がある」と社外取締役は判断した。

「鈴木氏が息子の康弘氏(取締役執行役員最高情報責任者)を次のトップにしようと考えて世襲を画策したのだとすると、セブン&アイHD次期社長確定といっていいほどの実績をあげている井阪氏は目の上のタンコブになる。米ヘッジファンドのサード・ポイントが、『鈴木氏が康弘氏を次期トップに就ける道筋をつけるという噂を耳にした。事実なら、鈴木氏のトップとしての適性や判断力に重大な疑問が生じる』と指摘したことに、鈴木氏がえらく激怒した。鈴木氏が『内部にサード・ポイントと内通している奴がいる』と言い出したことと、今回の井阪社長の首を切る人事は連動している」(業界筋)

●内部分裂

 4月7日の取締役会は当初から紛糾するとみられていた。

「もし、すんなり鈴木氏の人事案が賛成多数で可決されるようなら、セブン&アイHDは間違いなく内部分裂する」と指摘する流通関係者は多かった。

 5月下旬の株主総会も波乱が予想される。経営が混乱状態に陥ったため、井阪氏の退任を仕掛けた鈴木氏が逆に辞めざるを得なくなったという構図だ。

 セブン-イレブンは週刊誌や夕刊紙の重要な販売チャネルになっているため、かつて有力週刊誌の編集長が「トップが逮捕でもされない限り、(セブン&アイHDの)スキャンダル記事の掲載は無理だ」と語っていたが、鈴木氏の辞任が決定的となった今、改めて同社の抱える問題が明るみに出る可能性もある。

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